歯茎から血が出るのはなぜ?考えられる原因と放置リスク
監修:歯科医師 金丸智士
歯磨きや食事の際に、歯茎から血が出たことはありませんか? 気になっても、痛みがないとそのままにする方もいらっしゃるでしょう。しかし、実は歯茎からの出血は、歯周病をはじめとするお口や全身の病気に関わる重大なサインであるケースが少なくありません。放置すると、将来的に歯を失う大きなリスクにつながります。
このコラムでは、歯茎からの出血の主な原因や放置する危険性、自宅でできる対策をわかりやすく解説します。
1.歯茎から出血が起こる5つの主な原因
1-1 ①歯周病(歯肉炎・歯周炎)の進行
1-2 ②強すぎる力でのブラッシング
1-3 ③女性ホルモンの変動による影響
1-4 ④生活習慣の乱れによる免疫力の低下や喫煙
1-5 ⑤全身疾患や服用しているお薬
2.歯茎からの出血を放置する3つの危険性
2-1 ①最終的に歯が抜け落ちるリスク
2-2 ②周囲に不快感を与える口臭の原因
2-3 ③糖尿病や心疾患など全身への影響
3.今日から始める!歯茎の出血を防ぐ正しいケア
3-1 ①優しく丁寧なバス法(歯磨き)の実践
3-2 ②歯間ブラシやデンタルフロスの併用
3-3 ③生活習慣を見直し抵抗力を高める
4.歯科医院を受診すべきタイミングと治療内容
4-1 ①受診が必要な症状のチェックリスト
4-2 ②歯科医院で行う専門的なクリーニング
5.出血は歯茎からのSOS!早めの受診で健康を守ろう
歯茎から出血が起こる5つの主な原因
歯茎から血が出る背景には、お口の中の細菌感染や間違ったブラッシング、全身の健康状態など、さまざまな要因が関係しています。まずはご自身の状態と照らし合わせてみましょう。
①歯周病(歯肉炎・歯周炎)の進行
歯茎からの出血の原因として最も多いのが歯周病です。厚生労働省の「歯科疾患実態調査」等でも示されているとおり、歯周病は日本の成人の多くが罹患している国民病のひとつです。
歯の表面に付着した歯垢(プラーク)には、1mgあたり1億個以上の細菌が存在しています。この細菌が出す毒素によって歯茎に炎症が起きると、毛細血管が拡張してわずかな刺激でも血が出やすくなります。
初期段階の「歯肉炎」であれば歯茎のみの炎症で済みますが、進行して「歯周炎」になると、歯を支える骨(歯槽骨)まで破壊されていきます。
②強すぎる力でのブラッシング
歯をきれいにしようとするあまり、力を入れすぎたり硬すぎる歯ブラシを使用したりすると、物理的なダメージで歯茎が傷つき出血することがあります。
健康な歯茎であっても、過度な擦過刺激を毎日与え続けると、表面の粘膜が剥がれて炎症を起こします。歯ブラシの毛先がすぐに広がってしまう場合は、無意識に強い力をかけていることがあるため、注意が必要です。
③女性ホルモンの変動による影響
女性の場合、生涯のさまざまなライフステージにおいて、ホルモンバランスの変化に伴い歯茎が出血しやすくなる時期があります。
特に、妊娠期や思春期などには、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌量が急増します。特定の発症細菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス[Porphyromonas gingivalis]やプレボテラ・インターメディア[Prevotella intermedia]など)は、女性ホルモンを栄養源にして増殖する性質があり、通常よりも歯茎が腫れやすく、わずかな刺激で出血する「妊娠性歯肉炎」などを引き起こします。
④生活習慣の乱れによる免疫力の低下や喫煙
不規則な生活習慣や過度なストレスは、お口の中の細菌と戦う体の「免疫力」を低下させ、歯茎の炎症と出血を悪化させます。
睡眠不足や栄養の偏った食事 、ストレスが続くと、体の抵抗力が落ち、歯茎に炎症が起きて出血しやすい環境を作ります。
なお、喫煙は出血の原因となる歯周病そのものを劇的に悪化させますが、ニコチンの血管収縮作用によって「炎症があっても血が出にくくなり、気づかないうちに重症化しやすい」という特有の危険性も持っています。
⑤全身疾患や服用しているお薬
お口の中の問題だけでなく、全身の病気や定期的に服用しているお薬が原因で血が止まりにくくなっている場合もあります。
たとえば、白血病や特発性血小板減少性紫斑病などの血液疾患、糖尿病による免疫力低下が挙げられます。
また、脳梗塞や心疾患の予防のために「抗凝固薬(ワルファリンなど)」や「抗血小板薬(アスピリンなど)」といった血液をサラサラにするお薬を飲んでいる方は、出血が止まりにくくなります。
歯茎からの出血を放置する3つの危険性
痛みがほとんどないからといって出血を放置していると、知らず知らずのうちに症状が重症化してしまいます。放置によって引き起こされる主なリスクを確認しておきましょう。
①最終的に歯が抜け落ちるリスク
歯茎からの出血を放置して歯周病が進行すると、最終的に歯を支えている骨が溶けてなくなり、歯がグラグラして抜け落ちてしまいます。
日本人が歯を失う最大の原因は「歯周病」です(厚生労働省や8020推進財団の調査に基づく)。一度大きく減ってしまった歯槽骨は、自然に元の状態へ戻ることはありません。早期に発見して進行を食い止めることが、自分の歯を長く残す唯一の方法です。
②周囲に不快感を与える口臭の原因
歯茎の炎症や出血は、ご自身だけでなく周囲にも影響を与える強い口臭の発生源となることがあります。
歯周病菌は、血液に含まれるタンパク質を分解する際に「メチルメルカプタン」と呼ばれる不快な硫黄化合物を生成します。これは腐った玉ねぎのような強いニオイを発するため、対人関係や日常生活での大きな悩みに繋がることも少なくありません。
③糖尿病や心疾患など全身への影響
近年の学術論文や日本歯周病学会などの発表において、歯周病菌や炎症物質が血液を介して全身へ巡ることで、様々な全身疾患に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。
特に、糖尿病と歯周病は相互に悪影響を及ぼし合う関係にあり、歯周病の治療を行うことで糖尿病の指標(HbA1c)が改善することも報告されています。
また、動脈硬化や心筋梗塞、誤嚥性肺炎リスクの上昇など、命に関わる病気との関連性も指摘されています。
今日から始める!歯茎の出血を防ぐ正しいケア
血が出ると『傷つけてしまった』と思って磨くのをやめてしまいがちですが、原因の多くは歯垢による炎症です。強い力でゴシゴシ擦るのはNGですが、柔らかめの歯ブラシで優しく汚れを取り除くことで、数日から1〜2週間ほどで出血は落ち着いていきます。
正しいお手入れの方法を身につけて改善を目指しましょう。
①優しく丁寧なバス法(歯磨き)の実践
歯茎を傷つけず、効率的に歯垢を取り除くために「バス法」と呼ばれる磨き方を取り入れましょう。
歯と歯茎の境目に対して、歯ブラシの毛先を45度の角度で当て、小刻みに(1〜2本ずつ)10〜15回ほど優しく振動させます。
毛先の硬さは「ふつう」か「やわらかめ」を選び、ペンを握るように軽く持って(ペングリップ:鉛筆持ち)、過度な力を入れないように注意しましょう。
②歯間ブラシやデンタルフロスの併用
歯ブラシ単体だけでは、歯と歯の間の汚れの約60%程度しか落とすことができないとされています。残りの汚れを放置すると、歯の間から炎症が始まります。
毎日の歯磨きにデンタルフロスや歯間ブラシをプラスすることで、歯垢除去率は80%以上に向上します。使い始めに出血があっても、無理のない範囲で正しく使い続けることで炎症は徐々に落ち着き、出血も収まっていきます。
歯と歯の隙間が狭い場所(特に前歯)にはデンタルフロス、隙間が広くなっている場所や奥歯には歯間ブラシが適しています。ただし、サイズが大きすぎる歯間ブラシを無理に使うと歯茎を傷つける恐れがあるため、不安な場合は歯科医院で適切なサイズを選んでもらいましょう。
③生活習慣を見直し抵抗力を高める
お口の中の細菌に対する抵抗力を維持するためには、日頃の生活リズムを整えることが欠かせません。
栄養バランスの取れた食事、質の高い睡眠、適度な運動を意識しましょう。
また、喫煙している方は禁煙に取り組むことで、歯茎の血流が改善し、本来の自己治癒力を取り戻しやすくなります。
歯科医院を受診すべきタイミングと治療内容
セルフケアだけでは取り除けない汚れや、すでに進行してしまった炎症には専門的なアプローチが必要です。「これくらいなら大丈夫」と自己判断せずに、早めの受診を検討しましょう。
①受診が必要な症状のチェックリスト
以下のような症状が見られる場合は、セルフケアだけで解決しようとせず、早めに歯科医院へ相談することをおすすめします。
- 歯磨きをすると毎回出血する
- 歯茎が赤く腫れている、ブヨブヨしている
- 朝起きたときに口の中がネバネバしたり、血の味がしたりする
- 歯が長くなったように見える、指で触るとグラグラする
- 固いものを噛むと痛みを感じる
②歯科医院で行う専門的なクリーニング
歯科医院では、セルフケアでは落としきれない頑固な汚れを除去して、口内環境を根本から整えます。
石灰化した「歯石」は歯ブラシでは落とせません。歯科衛生士や歯科医師が専用の器具(超音波スケーラーなど)を用いて除去(スケーリング)します。
また、歯周ポケットの奥深くに溜まった汚れを取り除く「ルートプレーニング」や、一人ひとりに合わせたブラッシング指導などを行って再発を防ぎます。
出血は歯茎からのSOS!早めの受診で健康を守ろう
歯茎からの出血は、決して見過ごしてはいけない、お口からの重大なSOSサインです。初期段階であれば、正しい歯磨きやデンタルフロスなどの使用、そして、生活習慣の改善によって十分に健康な状態へ戻すことが可能です。
自己判断で放置してしまうと、知らず知らずのうちに歯周病が進行し、大切な歯を失うことにもなりかねません。気になる症状が続く場合は、できるだけ早くお近くの歯科医院を受診し、専門的な検査とクリーニングを受けましょう。
今日からの丁寧なケアが、将来の歯の健康を守る第一歩になります。
当院では、無料カウンセリングも受け付けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。