過剰歯の原因とは?放置のリスクと抜歯の判断基準を専門家が解説
監修:歯科医師 金丸智士
お子さんの歯の生え変わりが始まって、「子どもの歯並びが変」「余計な場所から歯が生えてきた」ということが気になった場合、過剰歯(かじょうし)が原因かもしれません。
過剰歯とは、通常より多く存在している歯のことです。放置すると、将来的な歯並びや周囲の歯へ悪影響を及ぼすリスクがあります。
このコラムでは、なぜ過剰歯が発生するのか、その原因と治療の必要性をわかりやすく解説します。
【目次】
1.過剰歯とは?通常の歯との違い
2.なぜ生えるの?過剰歯の主な原因とメカニズム
2-1 1. 歯胚(しはい)の分裂
2-2 2. 歯板(しばん)の過形成
2-3 3. 遺伝や進化の過程との関連性
3.過剰歯を放置することで起こる5つのリスク
3-1 永久歯の萌出不全
3-2 歯並び(不正咬合)の悪化
3-3 含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)の形成
3-4 隣接する歯の歯根吸収
3-5 鼻腔内への迷入(めいにゅう)
4.過剰歯はどうやって見つける?診断方法について
4-1 レントゲン撮影
4-2 歯科用CT(3次元診断)の重要性
5.治療のタイミング:抜くべきか、残すべきか
6.抜歯手術の流れと術後のケア
7.早期発見が「一生の歯並び」を守る
過剰歯とは?通常の歯との違い
「過剰歯」という言葉を初めて聞く方も多いでしょう。一言で言えば、本来の本数よりも多く形成された歯のことです。
もともと、乳歯は全部で20本、永久歯は28~32本(親知らずの有無によって異なります)存在しています。しかし、人によっては、それよりも多く歯が存在していることがあり、その歯のことを過剰歯と言います。
厚生労働省の歯科疾患実態調査や各種臨床データによると、過剰歯は全人口の約1.5%〜3%程度に見られると言われています。
特に以下の特徴があります。
性別: 男子の方が女子よりも2倍近く発生しやすい。
場所: 上あごの前歯の間(正中過剰歯)が最も多い。
本数: 1本だけの場合が多いが、稀に複数本存在することもある。
通常、歯は決まった時期に決まった場所から生えてきます。しかし、過剰歯は本来の生え変わりのサイクルから外れており、生えてくる時期も場所も定まっていません。そのため、歯並びの悪化や思わぬ口内トラブルの原因になることがあります。
なぜ生えるの?過剰歯の主な原因とメカニズム
現代医学において、過剰歯が発生する明確な理由はまだ完全には解明されていません。
国立大学の歯学部や公的な研究機関の知見では、主に以下の2つの説が有力視されています。
1. 歯胚(しはい)の分裂
歯の卵である「歯胚(しはい)」が、成長過程で何らかの拍子にふたつに分裂してしまうという考えです。ひとつの種からふたつの芽が出るようなイメージで、結果として余分な歯が形成されます。
2. 歯板(しばん)の過形成
歯が作られる元となる組織「歯板(しばん)」が、本来の役割を終えた後も消滅せずに活動を続け、余分に歯を作り出してしまうという説です。多くの専門家はこの「歯板の過活動」が主要な原因であると考えています。
3. 遺伝や進化の過程との関連性
遺伝的な要因が関与している可能性も指摘されているものの、親に過剰歯があるからといって必ず子どもに遺伝するわけではありません。
また、人類の進化の過程で退化したはずの歯が再び現れる「先祖返り」の一種とする説もありますが、これらはまだ推測の域を出ない部分が多いのが現状です。
過剰歯を放置することで起こる5つのリスク
「歯が多いだけ」「痛みがないなら放っておいてもいいのでは?」と思われがちですが、過剰歯を放置すると、健康な永久歯の成長を著しく阻害する恐れがあるため注意が必要です。
永久歯の萌出不全
永久歯が生えようとする進路を過剰歯が塞いでしまうことがあります。それによって、永久歯が歯茎の中に埋まったまま(埋伏)になったり、本来生えてくるべき場所からずれて斜めに生えてきたりします。
歯並び(不正咬合)の悪化
前歯の間に過剰歯があると、前歯が左右に大きく開いてしまう「正中離開(すきっ歯)」の原因になります。これは見た目の問題だけでなく、咬み合わせのバランスを崩すことにも繋がりかねません。
含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)の形成
歯茎の中に埋まっている過剰歯の周囲に、液体が溜まった袋(嚢胞)ができることがあります。これが大きくなると、周囲の顎の骨を溶かしたり、健康な歯の根っこを圧迫したりする深刻なトラブルに発展します。
隣接する歯の歯根吸収
過剰歯が、隣にある永久歯の根っこを押し続け、永久歯の根が溶けて短くなってしまう「歯根吸収」という現象が起こることがあります。最悪の場合、健康な永久歯が抜けてしまうことに繋がり、歯を失うリスクが高まります。
鼻腔内への迷入(めいにゅう)
非常に稀なケースですが、過剰歯が「逆性(鼻の方向を向いている)」の場合、鼻の穴の底(鼻腔底)に向かって突き抜けて生えてくることがあります。鼻の粘膜を刺激し、鼻炎のような症状を引き起こすこともあります。
過剰歯はどうやって見つける?診断方法について
過剰歯の多くは歯茎の中に埋まっており、肉眼では見えません。そのため、発見には歯科医院での画像診断が不可欠です。
レントゲン撮影
歯科検診などで撮影する全体像(パノラマ)や、特定の部位を詳しく撮る小さなレントゲンで発見されることが一般的です。
「乳歯がなかなか抜けない」「永久歯が生えてくるのが遅い」といった相談をきっかけにレントゲン撮影を行なって見つかるケースがほとんどです。
歯科用CT(3次元診断)の重要性
最近では、歯科用CTを用いた3次元的な診断が推奨されています。過剰歯が骨のどの位置にあるのか、永久歯の根っことどのくらい近いのか、立体的な位置関係を正確に把握することで、より安全な治療計画を立てることが可能になります。
治療のタイミング:抜くべきか、残すべきか
過剰歯が見つかったからといって、すぐに抜歯が必要なわけではありません。治療の必要性や時期は、年齢や生えている位置によって慎重に判断されます。
<抜歯が必要なケース>
○永久歯の萌出を明らかに邪魔している場合
○歯並びに悪影響を及ぼしている場合
○周囲に嚢胞(袋状の病変)ができている場合
○将来的にインプラントや矯正治療を検討している場合
<経過観察になるケース>
○深い位置にあり、周囲の歯に悪影響を及ぼしていない場合
○抜歯手術によるリスク(神経損傷など)が、抜歯を行うメリットを上回る場合
○本人が低年齢すぎて、手術のストレスが大きい場合
このように、過剰歯の対応は「見つかったら即抜歯」ではなく、現状の永久歯への影響や、今後起こりうるトラブルなどを考慮して慎重に決定されます。
最適な時期を逃さないよう、信頼できる歯科医師と相談しながら、定期的な観察を通じて抜歯の必要性や時期を見極めることが重要です。
抜歯手術の流れと術後のケア
過剰歯の抜歯方法には「通常の抜歯」と「小手術」があり、どちらの処置を行うかは位置によって異なります。
○通常の抜歯:歯がすでに見えている場合は、他の歯を抜歯する時と同様の処置を行います。局所麻酔で比較的短時間で終わります。所要時間は15分~30分程度です。
○切開を伴う抜歯:歯茎の中に埋まっている場合は、歯茎を切り、骨を少し削って取り出します。30分〜60分程度必要です。
いずれの場合も、術後数日間は痛みや腫れが出ることがあるため、激しい運動は控え、安静にできるタイミングで処置をされることをお勧めいたします。
また、処方された抗生剤や痛み止めは、用法容量を守って服用しましょう。
◆全身麻酔が必要な場合も
低年齢のお子さんや、深い場所に複数の過剰歯がある場合は、大学病院などで全身麻酔や静脈内鎮静法を用いて、眠っている間に手術を行うこともあります。これは処置中の安全性の確保だけではなく、お子さんの歯科恐怖症を防ぐための有効な選択肢です。
早期発見が「一生の歯並び」を守る
過剰歯は珍しいものではなく、その存在に気づかずに放置すると、お子さんの将来の歯並びや永久歯の健康に大きな影を落とすことがあります。
過剰歯の原因は、歯が作られるプロセス上のイレギュラーであることが多く、現状は予防することができません。だからこそ、定期的な歯科検診とレントゲン確認による早期発見が何よりも重要です。
もしすでにお子さんのお口の中に思い当たる歯があったり、少しでも不安を感じたりしているようなら、まずはかかりつけの歯科医院で相談してみましょう。