舌小帯が短いとどうなる?手術が必要なケースと治療法を解説
監修:歯科医師 金丸智士

「舌小帯(ぜつしょうたい)」とは、舌の裏側にあるヒダ状の組織のことです。
生まれつきこの舌小帯が短く、舌の動きが制限される状態を舌小帯短縮症といいます。
舌小帯短縮症は、発音や食事、授乳、歯並びにまで影響を及ぼすことがあり、場合によっては手術が必要です。
今回は、舌小帯短縮症の見分け方、症状、手術が検討されるケース、そして術後の注意点までを分かりやすく解説します。
【目次】
1.舌小帯短縮症とは?その症状と影響
2.舌小帯短縮症に手術が必要となるケース
3.舌小帯切除術とは?手術内容と年齢
4.手術後の注意点とMFTの重要性
5.手術費用と保険適用について
6.舌小帯の異常に気づいたら、まずは相談を
舌小帯短縮症とは?その症状と影響
舌小帯短縮症とは、舌の裏側から下の前歯の付け根にかけて伸びる筋が通常よりも短い状態を指します。
典型的なサインとして、舌を前に突き出したときに舌先がハート型にへこむ現象(ハート舌)が挙げられます。
舌小帯短縮症だと、舌が十分に動かせず、以下のような問題が現れる可能性があります。
○発音障害(構音障害)
「ラ行」や「サ行」など、舌先を使う発音がしにくく、不明瞭になる。
○授乳や食事の問題
乳児期にはうまく乳首を吸えず、母乳やミルクが飲みにくい。幼児期以降も舌で食べ物をうまく送れない。
○歯並びへの悪影響
舌の位置が低いことで、歯列や顎の発育に影響が出る。
ただし、これらの症状がすべての舌小帯短縮症に現れるわけではなく、程度に応じて治療方針は変わります。
舌小帯短縮症に手術が必要となるケース
舌小帯短縮症の治療は、すべてのケースにおいて手術が必要になるわけではありません。
程度によって「経過観察」「機能訓練(MFT)」「手術」の3つのケースに分かれ、以下のような場合には手術が検討されます。
- 発音や言語発達に支障がある(特に5歳以降でも改善しない場合)
- 授乳障害が著しく、体重増加に影響を与えている
- 食事や嚥下機能に明確な支障がある
- MFT(口腔筋機能療法)を試しても改善が見られない
特に小児においては、発音や舌の動きは成長とともに改善することもあるため、5歳以降に必要性を再評価するというのが日本小児歯科学会の方針になっています。
参照:日本小児歯科学会 舌小帯切除に関する見解
舌小帯切除術とは?手術内容と年齢
舌小帯の手術(舌小帯切除術)では、短縮された舌小帯を一部切除することで、舌の可動域を広げます。
○施術方法
多くの場合、局所麻酔下で行われますが、小児や新生児には無麻酔や全身麻酔を選ぶこともあります。
レーザーを使った低侵襲な処置も増えています。
○対象年齢
新生児から成人まで可能です。発音の問題が明確になる5〜7歳前後で行うことが多いですが、大人でも必要に応じて施術いたします。
手術後の注意点とMFTの重要性
手術後は、軽度の痛みや違和感がありますが、ほとんどは数日以内に回復します。
術後の注意点として以下が挙げられます。
- 手術当日は安静にし、刺激物や硬い食べ物は避ける。
- 麻酔が切れて痛みを感じる時は痛み止めを服用する。翌日には痛みが引くことが多い。
- 抜糸や経過観察のため、術後1週間ほどで再受診が必要。
さらに重要なのが、術後のMFT(口腔筋機能療法)です。MFTは、舌の筋力や動きを高めるための機能トレーニングで、舌を正しく使えるようにするという目的で行われます。
主なトレーニング内容は以下の通りです。
- 「あいうべ体操」
- 舌の上げ下げや発音の練習
- 嚥下の訓練
これにより、舌の正しい位置や動きを身につけ、再発防止や発音障害の改善を目指します。
歯並びの悪化防止などにも効果的なため、お口の中の状態によっては、舌小帯異常の有無に関わらず取り入れた方がいい場合もあります。
手術費用と保険適用について
舌小帯切除術は保険適用で受けられる処置です。
ただし、MFTに関しては保険が効かず、自費診療となるケースがほとんどです。
費用についての詳細は医院ごとに異なるため、事前にかかりつけの歯科医院で確認しましょう。
舌小帯の異常に気づいたら、まずは相談を
舌小帯短縮症は、発音・食事・お子さまの発育に関わる重要な問題です。
手術がすぐに必要なケースばかりではありませんが、将来のお子さまの成長や生活の質に大きく影響するため、医師による診断と適切なタイミングでの処置が非常に重要です。
もし、お子さまの発音や授乳、食事の様子で気になることがある場合は、すみやかに歯科医院や小児科などに相談することをお勧めいたします。
必要に応じて、手術と機能訓練を組み合わせた最適な治療法をご提案させていただきます。
また、乳児期から歯科医院の定期検診を受けておくと、早期発見しやすくなります。
お子さまのお口の中のサインを見逃さないためにも、定期的に検診を受ける習慣をつけるようにしましょう。